腰を使って理想の走り

小林・東大名誉教授「足速くなるマシン」 週1時間、体幹を鍛える

日本経済新聞 朝刊

20185302:00 

 

 

    

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ランニングの質を高めるには、骨盤や体幹の動きが重要という意識は広く共有されている。ただ、トレーニングで的確に鍛え、効果を実感するのはなかなか難しい。そんな悩みを週1回、1時間程度の使用で改善できる機器があるという。その名も「足が速くなるマシン」(スプリントマシン)。東京大駒場キャンパス(東京・目黒)内にあるQuality of MotionQOM)ジムを訪ねた。

 

 

関節の可動域を広げることで人間本来の動きを覚えさせるトレーニングマシン(東京大駒場キャンパス)
決して広いとはいえないスペースに、一風変わった約10種類の機器がずらりと並ぶ。バーベルなど通常のジムで当たり前の器具は見当たらず、ストイックな雰囲気もない。小林寛道・東大名誉教授(74)が開発したマシンの狙いは「動きの質」の改善にあるからだ。

 

 

動きの質を高めるトレーニングマシンを開発した東大の小林名誉教授
代表的な機器であるスプリントマシンは、片足ずつ乗せたペダルが前後に交互に動く仕組み。手すりを持って、ペダルに合わせて踏みこんでいくが、足と同時に同じ側の腰も前に出すことがポイントになる。

 

 

多くの人は足と同時に膝は出せるが、さらに腰も出すという動作はかなり難しい。だが、この動きがスムーズにできれば自然と歩幅は大きくなる。腰や骨盤を右、左と交互に動かして軸を変えながら推進力を生む「膝腰同側動作」(小林名誉教授)が、スプリントマシンの利用で自然と体得できるという。

 

他にも自動ですり足動作をしながら柔軟性を高めるマシンや、四つんばいの動物のように立ったまま楕円軌道のペダルを回し、同時に両手でハンドルも回転させる「アニマルウオークマシン」などユニークな機器ばかり。いずれも骨盤の動きを高め、大腰筋などのインナーマッスルを活性化させる効果があり、膝腰同側動作によって上半身と下半身の連動を生み出す狙いは変わらない。どのマシンも日常生活にはない奇妙な動きのため初回は多くが戸惑うが、毎週1回程度の利用で1カ月以内に慣れる人が大半。いったん動きを覚えれば力を入れることなく、可動域の広がりを感じられるという。初マラソンだった3月の名古屋ウィメンズで3時間切りを果たした大学職員の本山桃子さん(22)もその一人。「日々のランニングに加え、マシンを12週間に1度使ったことで走りが改善された」と振り返る。中学から大学まで陸上部を続けたものの、大学では駅伝に向けた5キロ程度の練習が多かった。半年前に初めてジムを訪れてから数回続けたところ「長い距離を走っていても足だけじゃなくて腰から動けている」と感じられ、ストライドが広がる感覚もあったという。「腰を入れた走り」は以前から取り組んできたつもりだったが、スプリントマシンやすり足マシンは「動きがシンプルで集中しやすかった」と本山さん。前傾になりすぎないようにというジムでの指導も奏功し、好記録が生まれたようだ。

小林名誉教授は長年日本陸上競技連盟の科学委員長を務め、五輪選手らの強化に当たった経歴を持つ。スポーツに科学的な知見をいち早く取り入れ、暑さ対策や高地トレーニングなど現在に続く基盤も作った。

男子100メートルの世界記録保持者だった米カール・ルイスらの走りを分析。足全体を素早く動かすにはアウターマッスルだけでなく、インナーマッスルの活用が必要だと気付いた研究者でもある。こうした成果をトップ選手に還元するだけでなく、多くの人が体験できるようにとマシンを試作したのが約20年前。以来、数々のマシンを作ってきた。

東大・駒場キャンパス内にジムが開設されたのは昨春のこと。現在は毎月の利用者約300人の半数が陸上やバドミントンなどの運動部員だ。1140だった100メートル走の自己ベストが1085に短縮した男子学生がいたり、バドミントン部で故障が減ったりという効果も生まれているという。

小林名誉教授は「日々のランニングなどと並行し、マシンで体の正しい動かし方を身につければ、パフォーマンスの向上につながるはず」と話している。

(鱸正人)